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zoom RSS 【絵画鑑賞】ボッティチェルリの<<春 (ラ・プリマヴェーラ)>>

<<   作成日時 : 2007/09/07 11:52   >>

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      サンドロ・ボッティチェッリ (Sandro Botticelli)

   春(ラ・プリマベーラ) (La Primavera)1482年頃



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         315×205cm : テンペラ・板 : ウフィツィ美術館(フィレンツェ)





<<ヴィーナスの誕生>>
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 本作品は、初期ルネサンス・フィレンツェ派の最大の画家、サンドロ・ボッティチェッリ<<ヴィーナスの誕生>>と並ぶ、彼の代表作である。

 美術史家、建築家、画家であったヴァザーリによって、<<春>>と名づけられたこの作品は、1476〜78年ごろにメディチ家当主のロレンツォ・デ・メディチ(1449−92)が後見人にあたっていた、分家の青年のロレンツォ・ディ・ピエルフランチェスコ・デ・メディチ(1463-1503)の委嘱で制作された。

 
 遠近法に注目し、幾何学的な理想的空間を作り上げる当時のルネサンスの風潮とは一線を引き、本作は、(他のボッティチェッリの絵画にもみられるように)中世的、あるいは国際ゴシック様式にみられる平面的で装飾的、かつ繊細華麗な空気を漂わせている。
 
 ギリシア神話の神々が画面上に配置されており、左から順に、西風ゼフェロス、妖精クロリス、彼女の化身である春の女神フローラ、愛の女神ヴィーナス、キューピッド、輪を描く三美神、そして神の使者メルクリウスとなる。


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 西風ゼフェロスは、妖精クロリスに恋をして、彼女を強引に我が物にしてしまう。
 しかし、その強引さを悔いたゼフェロスは、彼女を美しい春の女神、フローラに変える。

 地面に咲き乱れ、フローラを飾る数々の美しい花々は、40種類以上もあり、全てフィレンツェの春に見られるものだという。



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 画面左には、当時の花嫁が身につけた薄いヴェールを軽やかにまとった三美神(美・愛・貞淑の擬人像とされているが、諸説がある)が輪を描き踊っている。
 その斜め上方から、ヴィーナスの息子のキューピッドが「貞節」にむかって矢を放とうとしている。
 ちなみに「目隠しのキューピッド」は、盲目的な愛を意味するイコノグラフィー(図像)である。



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 画面左端には、神の使者(メッセンジャー)であり、そしてこの空間(「ヴィーナスの庭」といわれている)の守り手であるメルクリウスが、天上に彼の持ち物(アトリビュート)である杖を振りかざして、雲を払っている。

 この絵が描かれていたころ、メディチ家のライバルであったパッツィオ家によって、(フィレンツェでも名だたる美男子だったとされる、)ジュリアーノ・メディチ(豪華王、ロレンツォ・メディチの弟)が暗殺されており、このメルクリウスは、ジュリアーノを偲び、注文主の意向により、彼をモデルにして描かれたといわれている。



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 右手を優雅にかざし、ボッティチェッリ特有のメランコリックな表情を浮かべるヴィーナスは、ボッティチェルリのもうひとつの代表作<<ヴィーナスの誕生>>とともに、当時の知識人たちの間で主流となっていた「新プラトン主義」の思想との関連性もしばしば指摘される。

 古代ギリシア時代のプラトン思想に、キリスト教の教えを融合させたこの思想には、人間は「美」によって天上の「永遠の真理」の世界に触れる可能性も説いている。


<<ヴィーナスの誕生>>の「天上のヴィーナス」(左)
と、<<春>>の「地上のヴィーナス」(右)と呼ばれて
いる二人のヴィーナスの比較。
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 この二人のヴィーナスが示す「精神的(天上的)な愛」と、「肉体的(世俗的)な愛」は、本来対立するものではなく、どちらも「美」という共通項を通して相互補完しあいながら、循環する、あるいはより高次のものへと変化するのだという。

 すなわち愛と美の女神ヴィーナスは、「天上のヴィーナス」と「地上のビーナス」の二人おり、ボッティチェルリの作品では、本作の「着衣のヴィーナス」が「地上のヴィーナス」を示し、もう一方の<<ヴィーナスの誕生>>における「裸のヴィーナス」は「天上のヴィーナス」を示していると指摘される。


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輪を描く三美神たちも、右手を挙げているのが「貞節」、左手を挙げているのが「愛」の擬人像といわれていて、この一見対立しそうな「貞節」と「愛」の間に入り、二人を調和させ、なだめているかのような人物が「美」であるとされ、ここにも「天上」と「世俗」の要素を美によって調和し、融合させようとする新プラトン主義思想が反映されていると見られることも多い。


 華やかで、美しく文字通り「花の都」であったフィレンツェ。
 しかし、華やかに見えたその裏では外交上も、都市国家内も陰謀で渦巻き、常に緊迫していた時代、それがルネサンスのもうひとつの顔であった。

 この作品には軽やかさと美しい華やかな装飾性が見られながらも、どこか拭い去れないメランコリックな雰囲気は、そうした風潮を敏感に感じ取っていたボッティチェッリ自身の繊細さが現れているのかもしれない。


【関連記事】

サンドロ・ボッティチェルリとレオナルド・ダ・ヴィンチ
http://rirari-exhibition.at.webry.info/200708/article_7.html

(補足説明)
新・プラトン主義(かなり砕いて説明してあるので、概要をつかむ程度ですが・・・)
http://rirari.at.webry.info/200709/article_8.html

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コメント(6件)

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この絵は、背景が森の中の設定なの?か少し暗いけど、まあまあ好きです。記事に「平面的で装飾的、かつ繊細華麗」との説明あるの読んで共感しました。私がこの絵を好きな理由は「装飾的で繊細華麗」だからだと自分で納得しました。
美術クラブ会長
2007/09/13 21:32
この鬱蒼とした(笑)森の感じは、「装飾的で繊細華麗」で形容される「国際ゴシック様式」あるいは「中世的」な流れを汲んでいるといわれています。特に、人物の配置の仕方や、地面の装飾性は中世のタピストリー(織物)のようだと評されることも。細やかに施された花々が美しいですよね。
 ところで、本記事で、「天上のヴィーナス」「地上のヴィーナス」と対比させる見方を述べましたが、<春>と<誕生>の間には約10年の期間があることを考えると、画家はそこまで考えていたのかなぁ、と思ってしまうんですけどね(笑)
りらり
2007/09/13 22:29
りらりさん、今晩は☆
コメントに対して丁寧な説明ありがとうございます。
なるほど!タピスリーのようですね!
とても勉強になりました。
美術クラブ会長
2007/09/14 22:21
ギリシャ神話にはフローラはなく、ローマ神話と聞きますが、混合されているのでしょうか。ラテン語からの翻訳イタリア語に基づくものなのでしょうか。
しゅみどうらく
2009/03/28 09:11
この「春」は、ロレンツォ・イル・マニフィコの又従弟のロレンツォ・ディ・ピエルフランチェスコ・デ・メディチが注文主であるというのが定説になっていますが、

私の説では、
1. この絵は、もともとはイル・マニフィコの弟のジュリアーノとピオンビーニのアッピアーニ家のセミラミーデ(1477年に婚約が整う。彼女はシモネッタの姉の娘)との結婚の祝賀品としてイル・マニフィコからジュリアーノに贈られるはずであった。

2. しかし、パッツィの乱(1478年)によってジュリアーノが暗殺されたため、かわりにイル・マニフィコの又従弟、ロレンツォ・ディ・ピエルフランチェスコがパッツィ戦争終結後の1482年にセミラミーデと結婚することになり、「春」はそのまま、ロレンツォ・ディ・ピエルフランチェスコに贈られた。

というものです。

それがわかるのは、絵の中に歌の楽譜が隠されており、その音符の読み順が贈り主の頭文字と貰い受ける人の頭文字の形になっているからです。

具体的には、縦の音階の読み順は、L,i,M(Lorenzo il Magnifico)、その歌詞は、イル・マニフィコ作の「バッカスの勝利」です。これはヴィーナス賛歌ですね。
また、横の音階の読み順は、G d’M (Giuliano de’ Medici)、その歌詞は、ポリツィアーノの
「偉大なるジュリアーノ・ディ・ピエトロ・デ・メディチのジョストラ(馬上槍試合)に捧げるスタンツェ68節 」です。1475年のジュリアーノの晴れ舞台のジョストラ(馬上槍試合)での優勝とシモネッタを讃えたものですね。

そして、この「春」と「ヴィーナス誕生」は、ふたつでセットという強い結びつきを持っています。

詳しくは、拙著「隠された歌は真実を告げる」第3巻(http://tanto.wook.jp/)をご覧ください。
tanto
2011/09/19 03:23
「春」と「ヴィーナス」が製作された現場に集った人々を勝手に想像して楽しんでいます。ミラノに行くぎりぎり前のレオ(お花摘み担当)、これまたぎりぎり生きていてほしいフィオレッタ(モデル兼まかない)、まだ少年の面影残るピコ、そして後にメディチの名を捨てるロレンティーノ(と勝手に呼んでます)とジョヴァンニ兄弟、アーニョロ、ルクレツィア(モデル兼イルマニーフィコの伝令役)。
dieko
2015/05/08 21:08

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